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日本の電力事業をより良くする/電力事業によって日本をより良くする ために考えたこと

個性は強ければ強いほど価値がある(熱力学的に)

発電所の性能を表す熱効率は、一般的にエネルギー効率(投入したエネルギーのうち、何%を電力として取り出せたか?)を用います。

ちなみに筆者が働いている石炭火力発電所の熱効率は40%くらいです。

これは、石炭が有するエネルギーのうち、40%が電力になり、残りの60%は冷却用の海水や煙突からの排ガスによって外部へ捨てているということを意味します。

 

こう見ると、発電所は非常に無駄の多い設備だなぁと考える方も多いと思います。

(ここではLNGのGTCCと比較するのはやめましょう)

 

 

しかし、熱力学では上記のエネルギー効率では分からない、「本当はどれだけ無駄があるのか?」を知るための指標として、『エクセルギー』というものがあります。

 

エクセルギーの説明の前に、実は発電所の効率には理論的な上限があります。この上限はカルノー効率といいます。

詳細説明は省きますが、カルノー効率は以下の式で求められます。

 

カルノー効率 = 1 − (低温熱源の温度 / 高温熱源の温度)

発電所では、低温熱源は海水、高温熱源は燃料の燃焼ガスです。それぞれを27℃(300K)、1527℃(1800K)とすればカルノー効率(理論熱効率)は83%くらいでしょうか(数字はだいたいです)。

 

上記の式より、熱源(エネルギー源)から取り出せる電力(仕事)の量は、海水(=周囲環境の温度)と熱源との温度差が大きければ大きいほど増えることが分かります。

そして、この熱源から取り出せる電力の理論的な最大量をエクセルギーと呼びます。

 

エクセルギーという指標から分かることは、同じエネルギー量の熱源でも取り出せる電力(仕事)の量が違う(=価値が違う)ということです。

上記の説明の通り、熱源は高温であればあるほど(=エネルギーの密度が高いほど/周囲環境からかけ離れているほど)価値があります。

※熱力学の説明がややこしいと思われた方がいれば、「南極より南国のほうが、かき氷の価値が高い」と考えればいいのではないかと

 

 

さて、ここからが本題です。

熱力学的には、熱源(エネルギー源)は周囲環境からかけ離れているほど価値があることを説明しました。

筆者は、これは人材にも当てはまるのではないかと考えます。

つまり、全科目平均点の器用貧乏よりも、何か1つだけでも突出したものがある人の方が、価値がある(=天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずですから、『より多くの仕事を取り出せる』と表現するのが適切かもしれません)といえます。

 

この傾向は、多くの人と人とが協力し合って1つの仕事を成し遂げる時などには特に言えることなのではないかと思います。(突出したものがある人は、得意なことに集中して、苦手なことは他の人に任せればいいので。)

また、インターネットが普及してからこの傾向は更に加速している感があります。

 

 以上の視点を持つと、燃料の扱いと人材の扱いには重要な共通点があることに気づきました。

それは、「エクセルギーの高い(個性が強い、エネルギー密度の高い)燃料・人材ほど、取り扱うには高い技術が必要で、その代わり多くの仕事を取り出せる」ということです。

 

先に燃料の話をします。

燃料で最もエクセルギーの低い(取り出せる仕事は小さいが、取り扱いは簡単)ものは、太陽光です。人は、洗った衣服や食料を日に当てるだけで乾燥させるという成果を得られます。

次は薪や落ち葉で焚き火をする場合です。焚き火をするには特に免許とかは不要ですが、注意しないと火事になったり火傷になったりします。その代わり、物を乾かすだけでなく、焼いたりすることもできるようになります。

更に、石炭・石油・ガスなどの化石燃料。これは薪などよりもエクセルギーが大幅に高く、危険なので取り扱いには免許が必要(…と言ってもしっかり勉強すれば多くの人が取れる難易度)ですが、当然取り出せる仕事・電力量は増えます。

究極は核エネルギーで、少ない燃料から非常に多くの電力を取り出せますが、果たして現在の人類の科学技術で安全に取り扱うことが出来ているのか?賛否両論になるほど、取り扱いが難しい燃料と言えます。

 

さて、ここからは人材についてですが、ここでは2つの例を挙げます。

 

1つは学校の教育です。日本の学校では、どちらかと言うと生徒の個性を抑えて、みんな同じである方が良いかのような教え方をしがちです。これは、先ほど述べた燃料の例に倣うならばら「その方が扱いやすい・管理がしやすいから」であると考えられます。

 

一方、Googleのような大企業では、むしろ個性の強い人材を集めて、しかもそのような人材が自由に仕事を出来るような環境を作るよう、努力しているようです。

これは、Googleが「突出した強みを持つ人が得意なことに専念することで、最大の成果を引き出せる」と考えているからだと思われます。

 

ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える

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ここまでくれば筆者の論旨は言わずもがなかもしれませんが、要するに「日本の教育は個性を殺しがちだけど、これって海外は核エネルギーを使ってるのに対して、薪を大量にかき集めて戦おうとしているようなものなのではないですか?」ということです。

また、エクセルギーの高い燃料を取り扱うには高い技術が必要であるとも述べました。人材も同様で、個性の強い人材を取り扱い、成果を挙げるには高い技術(=マネジメント力)が必要なのではないかと思います。

故に、これからどの分野でも競争力を高めるためには人材の個性を大事にすること/人材の個性を引き出すマネジメント力を高めることの両輪をバランス良く頑張る必要があるのではないかなぁと考えています。