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日本の電力事業をより良くする/電力事業によって日本をより良くする ために考えたこと

戦艦大和とイノベーションのジレンマについて

最近、呉市大和ミュージアムに行く機会があったのですが、そこで印象に残る展示がありました。

『敗れて目覚めよ』

臼淵磐 - Wikipedia

「進歩のない者は決して勝たない 負けて目覚める事が最上の道だ 日本は進歩という事を軽んじ過ぎた 私的な潔癖や徳義に拘って、本当の進歩を忘れてきた 敗れて目覚める、それ以外にどうして日本が救われるか 今目覚めずしていつ救われるか 俺達はその先導になるのだ。 日本の新生に先駆けて散る。まさに本望じゃあないか」

これは天一号作戦(戦艦大和が撃沈された戦い)の直前に大和の乗組員が言った言葉とされています(創作との説もあるとのこと)。

 

確かにこれは日本が敗戦する直前(あるいは直後)に生まれた言葉ではあるのですが、世界一のスペックを持っていたはずの戦艦大和の乗組員が、なぜ『進歩という事を軽んじすぎた』とまで言うことになったのか、とても気になりました。

 

そして、筆者は以下の2冊の本を読んでその理由を察しました。

 

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)

 

 

 

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

 

 

 

 

 (どちらも全てのサラリーマンが読むべき本と言って良いほど、勉強になる本です)

 

大本営参謀』には日本が第二次世界大戦で負けた理由がたくさん書いてあります(とても勉強になるので是非本を読んで欲しい)が、そのうち代表的なものが

 海軍の大艦巨砲主義、陸軍の歩兵主兵主義は、どちらが、どちらを非難すべきものでもない。陸軍も海軍も日露戦争時代で足踏みしていた前時代的軍事思想の持主であった。

日本人、いや日本大本営作戦当事者たちの観念的思考は、数字に立脚した米軍の科学的思想の前に、戦う前から敗れていた。

(中略…日本陸軍の戦術的な強さについて…)

しょせん戦略の失敗を戦術や戦闘でひっくり返すことは出来なかったということである。

この際の戦略とは、太平洋という戦場の特性を情報の視点から究明し、もう十年以上も前に「軍の主兵は航空なり」に転換し、「鉄量には鉄量をもってする」とする戦略である。

 当時の日本の陸軍(歩兵)・海軍(艦隊)は相当に強かったとされていますが、米軍は『制空権を確保する』という、日本軍とは土俵の異なる戦いを展開しました。制空権を敵に取られると、最前線への補給がままならず、また作戦立案に必要な情報収集にも甚大な制約となってしまいます。結果、最前線にいた精強な日本兵たちは、まともに戦うことなく玉砕または飢餓や疫病に苦しむこととなりました。

 

他にも重要な敗因があることは承知の上で、ここでは筆者は『日本軍はイノベーションのジレンマに陥った』のではないかと考えます。

イノベーションのジレンマとは、

『偉大な企業は全てを正しく行うが故に失敗する』

という、一見矛盾しているかのような現象のことで、本書ではこのイノベーションのジレンマについて、事例分析によって明らかにしています。

尚、イノベーションのジレンマが発生する背景・理由には様々ありますが、特に重要な点は、『イノベーションを引き起こす「破壊的技術」は、少なくとも短期的には、製品の性能を「引き下げる」効果をもつ』ということ(そして、そのような破壊的技術が、既存の技術を死に追いやる)です。(詳細は本書を読んで頂きたいと思います。非常におすすめの本です)

 

さて、筆者はなぜ『日本軍はイノベーションのジレンマに陥った』と考えるかというと、おそらく空軍の強化・維持は費用の割に軍全体の戦闘力強化の度合いが小さい=コスパが悪い兵科であると思われるからです。

戦闘機の維持のためには、高い技能を持った乗組員・高い技術を擁した機体(高度・速度・旋回性能などが優っていないと戦闘には勝てないので、絶えず技術更新が必要)・飛行に使う燃料、が必要になります。

よって、資源・資金に限りのある日本軍は、結果的に少ない資源・資金で効果的に軍の戦闘力を高められる陸海軍(特に歩兵)を増やすことに注力することになったのではないかと想像します。

一方で、周知の通り圧倒的な物量を持つ米軍は、物量がなければ維持できない制空権を抑え、日本の精強な陸海軍を無力化していきました。(戦艦大和が撃沈した戦いの経緯を見ると、制空権を奪われた戦場において、世界最強の戦艦である大和が「ただの大きな的」になってしまっていたのがよく分かります。まぁ、後から振り返れば、そのような圧倒的な国力の差があるならばそもそも戦争なんてするなよということになるかとも思いますが)

 

以上が最近筆者が感じた「戦艦大和イノベーションのジレンマの話」です。結局、「進歩という事を軽んじすぎた」の「進歩」については「新しい考え方や技術を積極的に受け入れる姿勢」「戦いの本質を様々な切り口で考える柔軟性と探究心」というようなことになるかと思います。

 

イノベーションのジレンマは、日本では特に陥りがちなパターンであって、非常に重要な視点だなぁと感じています。

日本は現場が強く、また一途で職人気質な面があるので、イノベーションのジレンマを回避するための、トップダウンで行う大規模な方針転換が難しいのではないか(本では日本に限らず難しいと書いてますが)と思います。

 

電力業界においては、再生可能エネルギーが正にイノベーションのジレンマを引き起こす「破壊的技術」となる可能性があるため、細心の注意を払って対応を考えていかなければならないと考えます。(現状では発電出力が安定しないという致命的欠陥があるが、EVの普及などによって電気が容易に貯めておけるようになれば、却って火力・原子力の方が環境への悪影響が大きいだけの電源になりかねない)

 

したがって、筆者は今後は「新しい考え方や技術を積極的に受け入れる姿勢」「戦いの本質を様々な切り口で考える柔軟性と探究心」を持って仕事に取り組むよう心がけたいと思っていますので、是非皆さまとも継続的に様々な議論を通じて研鑽していきたいと思っております。