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日本の電力事業をより良くする/電力事業によって日本をより良くする ために考えたこと

原子力発電は必要か?(Ans.必要ない)

テレビなどで原子力発電所の再稼働はするべきか否か?などの議論が行われるとき、必ずと言って良いほど「震災直後に原発ゼロになったが、何とかなったではないか」という意見が出るかと思います。確かに「原発ゼロでも何とかなる」は事実なのですが、その事実に対する受け止め方が、一般の方々と電力業界の人間との間で大幅に異なっていると思われるため、この点についてまとめておこうと思います。

 

電力業界が安定供給の為に重要視している考え方に「エネルギーセキュリティ」があります。これは基本のキ、なので電力会社の人はみんな知ってますし、一般の方でも名前くらいは聞いたことがあるという方が多いのではないかと思います。

エネルギー安全保障 - Wikipedia

 

さて、ここでエネルギーセキュリティの意味をよくよく考えると、「エネルギーセキュリティ=原発は必要ない」であることが分かります。どういうことかと言うと、「原発は必要ないし、天然ガスも必要ないし、石炭も(石油も水力も太陽光も地熱も風力も)必要ない」という状態を維持するのがエネルギーセキュリティであるということです。(もっと厳密に言えば地域の分散も重要なので、「UAEの石油は必要ない、オーストラリアの石炭は必要ない、新潟の原発は必要ない、九州の太陽光は必要ない…etc 」 ということになるでしょう)

 

一般論として分かりやすいのは石油で、もし「石油が必要(石油が輸入出来なくなったら致命的に困る)」という状態になると、産油国にめっちゃ足元を見られることになるし、産油国の治安が悪くなって本当に石油が来なくなる可能性(オイルショック!)も考えなくてはいけません。そういった困った状況を避ける為、出来るだけ石油への依存度は下げておきたいということになります。

日本はエネルギー自給率が極端に低い(6%)ので、この理屈を全てのエネルギー資源に適用する必要があります。それが、先ほど述べた「原発は必要ないし、天然ガスも必要ないし、石炭も(石油も水力も太陽光も地熱も風力も)必要ない」です。

その結果として、震災前の日本のエネルギー比率(発電のみ)は石炭・天然ガス原子力が均等に割り振られていることがわかります。(水力は立地に限りがあり、石油は高コストのため、多少割合が下がる)

【エネルギー】日本の発電力の供給量割合[最新版](火力・水力・原子力・風力・地熱・太陽光等) – Sustainable Japan | 世界のサステナビリティ・ESG投資・CSR

 

これを踏まえて、件の「原発ゼロでも何とかなった」を考えてみると、電力業界にとってこれは「狙い通りの結果」であったといえますし、これまでの電力業界の安定供給への努力が実った事例だと言っても過言ではないと筆者は考えます。(更に言えば、当時は地震津波原発だけでなく太平洋沿岸の火力も相当ダメージを受けていたので、本当にすごい)

 

そして、一般の方は「原発ゼロでも何とかなったのだから原発は必要ない」と考える(これはごく自然の成り行きだと筆者も思いますが)のに対して、電力業界の人は「原発ゼロでも何とかなった。早く元どおり(原発天然ガスも石炭も石油も水力も太陽光も地熱も風力も必要ない状態)に戻したい」と考えることになります。(現在も含め、原発稼働率が極端に低下したことで化石燃料、特に天然ガスへの依存度が過剰になっていることは説明不要かと思います。具体的な割合は先ほどのリンク参照)

 

すなわち、「原発は必要ない」は正しいにも関わらず、その意味の捉え方は真逆になっているということになります。これが、電力業界の考え方が一般の方々に理解されない原因の一つ(原因はたくさんあるでしょうが…)になっているのではないかなぁと考える次第です。

 

以上の内容で全ての方に電力業界の考え方を理解して頂けるかどうかは自信がないですが、少なくとも今までの電力業界は、電力業界の理屈を一般の方々に丁寧に説明することを疎かにしてきたことは間違いありません。その結果が原発安全神話であり、また現在の電力業界への不信であると思います。従って、(筆者の説明の巧拙は傍に置いておいて、)電力業界の理屈をより分かりやすく(下手に加工したり隠したりすることなく)説明する努力は、これから更に重要になるなぁと考えています。

 

(余談)

エネルギー自給率を議論する際、「原発は準国産エネルギー」という、非常にうさん臭い文言が出てくることがあります。個人的はウランは輸入しているのに「準」国産などという呼称をでっち上げてまでアピールするのは明らかに不適切だと思います。

要するに国や電力業界が重要視している指標(KPI)はエネルギー自給率を上げることではなく、「輸入化石燃料の依存度の低下」であるということだと思います(その是非は別として)。そういうことならその通りに説明した方がまだ分かりやすいと筆者は思うのですが。読者の皆様はどう思われますでしょうか?