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日本の電力事業をより良くする/電力事業によって日本をより良くする ために考えたこと

経済学の勉強①〜需要供給曲線と電力市場について〜

最近経済学の入門書を読んで非常に勉強になったので、その内容から特に印象に残ったものをまとめておこうと思います。今回は、最も初歩的な内容ですが、需要供給曲線です。

 

マンキュー入門経済学 (第2版)

マンキュー入門経済学 (第2版)

 

 

まず需要供給曲線とは、ある商品の価格ごとの需要量・供給量をグラフにしたものです。価格を縦軸、量を横軸に取ることにすると、一般的に価格が下がるほど需要は増加するので需要曲線は右肩下がり、価格が上がるほど供給は増加するので供給曲線は右肩上がりとなります。そして、効率的な市場では2つの曲線の交点(均衡点)の価格が市場価格、量が取引量となります。(下図) 

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この需要供給曲線は、主に新しい政策や社会的インパクトのある事象(例えば気候変動)が経済にどのように影響するか分析するために用いられます。例えば、アイスクリーム市場について、今年の夏が冷夏になったらどうなるか?を考える場合、「アイスクリームの需要曲線は左(需要減少)方向にシフトするので、取引量も市場価格も下がる」ということが考えられます(下図)

 

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ここまでは説明されれば当然の内容のように思われますが、この需要供給曲線について様々な考察をしていくと、補助金・税金などの各種政策の効果をはじめ、環境汚染などの外部性の問題や、インフレーションの仕組みなど様々な経済に関わる事象がとても明快に理解出来るようになります。(詳しくは本を読んでみてください)

 

 

そういうわけで、ここでは上述した需要供給曲線を用いて電力市場について考えてみることにしたいと思います。

 

まず、電力市場について考えるとき、以下の点を特徴として踏まえておく必要があると考えられます。

①電力需要は価格が上下してもあまり変化しない(価格弾力性が低い)

②電力需要は季節・時間帯・気候などによって大幅に変化(需要曲線が左右にシフト)していく

③電力は大量には貯めておけない(在庫が持てない)ので、短期的な供給量には限度があり、それを超えるといくら価格が上がっても供給量が増えない

④電源(発電方法)によって限界費用(現状より供給量を増やすのにいくらかかるか?を示した費用。固定費は関係ない)が異なり、限界費用が低い電源(再エネ=ほぼゼロと思われる)から売れていく

 

以上の4点をまとめると下図のようになると思われます。(尚、ここではまだ固定価格買い取り制度などの政策・制度の影響は踏まえていません)

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さて、ここでケーススタディの一つとして、固定価格買い取り制度(FIT)による再エネ(太陽光発電)の増加が電力市場に及ぼす影響について考えてみたいと思います。(下図)

 

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まずはじめに言えることは、再エネが大量に導入されることになるということです。これによって供給曲線の底の部分(限界費用ゼロの領域)が増えます。尚、固定価格買い取りの料金分は、どの電源を利用しても消費者に満遍なく課金される仕組みであるため、この図には現れません(送電線の託送料金と同様)。また、再エネは気候条件により発電量が増減するため、底の大きさは時間帯によって変動します。
次に、中長期での影響ではありますが、限界費用(≒燃料費)が高い電源から徐々に減少していくと予想されます。これは再エネの増加によって発電所の利用率が低下し、採算が取れなくなってくるためですが、二酸化炭素排出や事故のリスクなど、いわゆる外部性の問題による政治的な圧力も影響があるでしょう。供給曲線としては右端の供給量の天井部分が左へシフトすることになります。

ここで、注目すべきは供給曲線の中央部分(斜めになっているところ)の傾きが大きくなっているという点です。これは供給側の価格弾力性が低くなっていることを示すものです。具体的に表現するならば、「電源の大半を占める再エネの発電量が、需要量や市場価格に関わらず天候によって決まる」という状況となります。

 

ここで、上記の変化が最終的に何をもたらすか予想したものが下図です。

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元々電力は需要の価格弾力性が低いとされていますが、ここに再エネの増加に伴って供給側の価格弾力性と低下することになると、需要曲線と供給曲線が交差しない場合が発生するのではないかと考えられます。このとき、供給が過多であれば市場価格が限りなくゼロ円に(ただし送電線料金はかかる)なります。一方、需要が過多であれば市場価格は無限大になってしまいます(あるいは停電か…)。

上に述べたのは極端な場合ではありますが、すでに部分的に、供給過多(ベースロード電源である石炭火力が減負荷・更には解列を迫られる)も需要過多(東電管内で寒波によって他地域から融通を受けたケースがありました)も生じています。

寒くて“震えた”東京電力|NHK NEWS WEB

 

ここで懸念があるのは特に需要過多となった場合で、消費者が異常な高価格を強いられたり、停電の不便を被る可能性があるわけです。市場原理が効率的に働かない原因があるとすれば、外部性と市場支配力(ごく一部の売り手が価格の決定権を握ってしまうこと)であると経済学では言われていますが、上述した供給側の価格弾力性低下が、まさに一部の発電事業者に市場支配力を与える結果となると言えます。

 

以上の検討から、今後日本の電力市場が健全な競争環境を維持するには、蓄電技術の向上(電気を貯めておければ、供給の価格弾力性を上げられる)や、火力などの調整力のある電源を一定量確保するための容量市場(発電量ではなく発電能力に料金を支払うことで、利用率が低くても固定費を回収出来るようにする)が必要なのではないかと考えられます。

(容量市場については政策立案が進められているようですが、いざ作るとなると料金負担の配分などなど詳細設計が難しいようです)

 

https://www.occto.or.jp/iinkai/youryou/

 

以上でまとめを終わりますが、上述の内容は個人的に自習して検討した内容なので、間違っていたらすみません…というか経済学が専門の方がいらっしゃったら是非詳しいことをご教授願いたい!