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日本の電力事業をより良くする/電力事業によって日本をより良くする ために考えたこと

自己実現する賃金について

最近参加した電力系統関係の講習で、再エネの固定買い取り価格と発電コストについて紹介されていて、

 

(国名/発電コスト($/MWh)/FIT価格(¢/MWh))

ドイツ/106/8.9

フランス/124/10.6

イギリス/141/16.5

ブラジル/111/7.8

中国/109/7.8〜9.7

日本/218/22.5

※米国・豪州はFITでないため割愛

 

…と、概ね日本は買い取り価格・発電コスト共に海外の2倍であるということだそうです。

講習ではこのデータを受けて、今後どう再エネのコスト・国民への負担を引き下げるかが課題、等々の見解が示されたわけですが…。でも考えてみればこの状況は当たり前のことなのではないかなぁと思いました。

何故なら、「固定買い取り価格が海外の2倍ならば、発電コストが海外の2倍でも採算が取れる」はずだからです。

 

もう一つ同じ講義で紹介されたデータでは、2013年度にFIT価格が37円だった頃、太陽光発電導入量の2030年目標値(5300万kW)を大幅に上回る7000万kWの事業認定量(※申し込まれた量であって、実際に運開した量とは異なる。運開したのは1000万kW程度)となったということです。

これも先ほど筆者が述べた「固定買い取り価格が海外の2倍ならば、発電コストが海外の2倍でも採算が取れる」が影響しています。すなわち、「コストが海外の2倍でも良いなら太陽光やりますよ」という事業者が、政策立案者の想定より数倍多く現れたと言えます。

 

さて、この状況で日本の太陽光発電のコストを下げるにはどうすれば良いのか?答えは簡単で、FIT価格を引き下げることです。これによって、発電コストが高い事業者から淘汰され、安く発電出来る者のみが生き残ることによって、発電コストを引き下げることが可能です。もちろんFIT価格を下げれば、太陽光発電事業をやろうとする人が減少します。なのでどれくらいの量の太陽光発電を導入したいか?と、どの程度の発電コストまで許容するか?のバランスを考慮してFIT価格を決めなければいけません。ここで、認定の申し込みが殺到した当時の状況(初期のFIT価格は住宅用で42円だった)を考えると、日本のFIT価格は過剰に高かったと考えて間違いないと思われます。(そして、現にFIT価格は年々引き下げられている)

 

以上のことから言えることは2つあります。1つは「日本の太陽光発電のコストは高いが、必ずしも海外と比べて競争力が無いとは言えない」ということ。すなわちFIT価格を半分にすれば、すぐにでも日本の太陽光発電コストは半分になる(コストが半分の事業者だけが残る)と考えられます。

そしてもう1つは、「発電コストは技術力云々ではなくて固定買い取り価格によって決まる」ということです。以上のことを考えながら思い出した話があるのですが、

メディアやファイナンスという領域は、「予言が自己実現する」

 

MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体 宣伝会議

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…例えば、日経新聞が「◯◯銀行が潰れそうだ」と報道した場合、その報道が真実でなかったとしても、その報道を信じた大勢の人が◯◯銀行に殺到して預金を引き出そうとし、実際に銀行が潰れてしまうといったことが想定されます。

こうした「 事実を報道するのではなく、報道したことが事実になるという逆転性」が、「コスト(技術力)によって価格が決まるのではなく、価格によってコスト(技術力)が決まる」という現在の太陽光発電の特徴と、何となく共通点があるように感じます。

 

 

さて、(ここからタイトルを回収しにいくのですが、)賃金についても太陽光と似たようなことが言えるのではないかと筆者は考えます。つまり、「生産性が高い(高い成果を出せる)人の時給が高くなる」のではなく「高い時給が人の生産性を高くする」ということです。

これは発電所の現場では「◯◯という装置を導入すると人間の労働時間が◯◯時間削減できるのだが…」といったシチュエーションの積み重ねで実現します。すなわち労働者の時給が高い方が、生産性を高める装置への投資が促進されるわけです(アルバイトの時給上昇により自動化が進んだマクドナルドのように…【革命】日本マクドナルドが無人オーダー機を導入 / 注文は機械にお任せ → 誰とも話さずハンバーガー購入可能 | バズプラスニュース Buzz+。)

 

身近な例ではタクシーの利用が挙げられるように思います。時給が高い人は、タクシーに乗って節約出来た時間でタクシー代以上のお金を稼げるので、どんどんタクシーを利用してどんどん儲ける(高い賃金がタクシーの利用を促し、移動の生産性を高めている)ということです。格差社会ツラいですね。

 

以上より、もし会社が労働生産性をより高めたいと考えるのであれば、まず先に労働者の時給を上げることが有効なのではないかと考えます。ここで、時給≠総賃金であって、時給を上げる方法はベースアップだけではないという点は注意する必要があります。すなわち、総賃金を変えずとも、残業代を減らして代わりに基本給を上げれば良いことになります。

これの行き着いた先が、恐らく最近話題の裁量労働制(残業代ゼロ法案)ということになろうかと思います。何となく世間では過労死を増やす側面ばかり取り沙汰されている感はありますが、逆に残業代ゼロでも同じ賃金が貰えると思えば魅力的とも言えるわけですが…。(これに対する処世術は、「ここまで成果を出せばお給料分の仕事はしたはずだ!」と仕事の区切りを労働者が自分で判断できるようになることだと思います。結構、慣れないと難しそうですね…。)

 

 

さて、長くなりましたが結論としては、今の労働組合はベースアップ一辺倒の交渉しかしてませんが、そろそろ他の方法(総賃金ではなく時給を上げる方向に…)を考えるべきかなぁということです。そうすれば社員の労働生産性も上がるし、同じ人件費で社員の厚生(満足度)もより高まると思うんですが…。

お給料、上がると良いなぁ…

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